【レポート】山本一輝×松田龍デュオリサイタル

2021年8月28日、弊社主催の「松田龍×山本一輝デュオリサイタル」がミューザ川崎シンフォニーホールの市民交流室で行われた。緊急事態宣言を受け、座席の間に十分な間隔を空けた形での開催だが、満席になるほどの多くの方々にご来場いただいた。

今回の出演者は桐朋学園大学時代の同級生、ピアニストの松田龍さんとヴィオリストの山本一輝さん。お二人はお客様の拍手を受けながら登場し、演奏を始めた。

1曲目は長いピアノソロから始まるヒンデミットの「ヴィオラとピアノのためのソナタ Op.25-4」。約1分後、躍動感のあるピアノ伴奏に乗せてヴィオラが登場。落ち着いた音色で奏でられた緊張感のあるメロディーが会場に響き渡った。お二人はアイコンタクトや息での合図で、極自然で絶妙な掛け合いを見せてくれた。

2曲目はプロコフィエフ作曲、ボリソフスキー編曲の「ロミオとジュリエット 作品64」からの3曲。詩情豊かな「前奏曲」、威圧的で重々しい「騎士たちの踊り」、切なくも甘い「バルコニーシーン」。特に「騎士たちの踊り」の中盤に、ヴィオラが金管楽器のような鋭い音色を奏でて、神秘さを表現。山本さんの演技力がお見事だった!悲劇的な終わり方をする物語だが、松田さんの希望で幸せなまま幕を閉じた。

3曲目は石島正博先生作曲の「無伴奏ヴィオラの為のソナタ」、今回の演奏会が世界初演となった新曲。壮大な世界観を持つ全4楽章のこの曲に、先生の震災への思いが込められた。警報のようなイントロから始まる第1楽章、戦慄のメロディーが不安な情緒に満ちた。第2楽章は小さくうなる風から嵐を起こして、何かを切なく訴える哀歌のようだ。ピッツィカートと滑らかな旋律が交互に出る第3楽章は、悲しくも少しの安らぎを感じた。第4楽章のトッカータは怒涛のように激しく、凄まじい勢いだった。山本さん渾身の演奏に、お客様が大きな拍手を送った。

後半冒頭、山本さんがマイクを持って登場。後半の2曲の関連について、「ショスタコーヴィチ作曲のこのソナタの第3楽章は、ベートーヴェンの月光ソナタの第1楽章をオマージュとして作られた」と、自らピアノを演奏しながら説明した。その後松田さんが登場し、静かな会場に、ベートーヴェン「ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調Op.27-2(月光ソナタ)」が美しく響き始めた。感情が押し寄せる波のようにどんどん高まり、また静けさに戻った。正に「幻想的」な時間と空間だった。

2曲目はショスタコーヴィチ作曲の「ヴィオラとピアノのためのソナタOp.147」、作曲家が死の直前に書いた3楽章構成の大作。冒頭の掛け合いは冷静な会話のようで、悲劇的な緊張があった。ショスタコーヴィチ式のアイロニーとユーモアが溢れた第2楽章の後、ベートーヴェンへのオマージュと美しいテーマを持つ第3楽章が始まった。ヴィオラはとても優しい音色で、癒しと安らぎをもたらした。

アンコール曲は山田耕筰作曲の「この道」。優しいピアノ伴奏に乗せて、ヴィオラは懐かしいメロディーをたっぷり歌い上げた。和やかな雰囲気のなかで、リサイタルは無事終了した。

普段ヴァイオリンの影に隠れがちなヴィオラだが、今回の演奏会を通して、ヴィオラの多彩な音色、多様な弾き方など、少しでも皆様にヴィオラの魅力を届けられたなら嬉しい。お二人の友情も大変美しく、共に舞台に立つ姿が輝いて見えた。これからも松田龍さんと山本一輝さんの活躍を応援していきたい。

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